イスラエルの参加をめぐる大規模な抗議活動、オランダの衝撃的な決勝出場失格など、前代未聞の波乱の大会となった世界最大の歌コンペティション番組『第68回ユーロビジョン・ソング・コンテスト』(68th Eurovision Song Contest)のグランド・ファイナルが前大会優勝国スウェーデンの第3の都市マルメで現地時間5月11日に開催され、🇨🇭スイス代表ニモが代表曲「The Code」で優勝を果たした。
スイスのベルン州ビール/ビエンヌ出身、24歳のノンバイナリー・シンガーソングライター、ニモ(Nemo / 本名Nemo Mettler)のスイス代表曲「The Code」は、審査員票で第2位の🇫🇷フランスを147ポイント大きく引き離す最高得点365ポイントを獲得、一方視聴者票で第5位(226ポイント)となったが、総合得点で591ポイントとなり、優勝最有力候補だった🇭🇷クロアチアを僅か44ポイント差で破る形で接戦を制し、優勝した。
これによりニモはノンバイナリー初の優勝者となった。スイスはユーロビジョン初の大会でリス・アシア(Lys Assia)が優勝した1956年大会、そしてスイス代表としてセリーヌ・ディオン(Céline Dion)が「Ne Partez Pas Sans Moi」(邦題:私をおいて旅立たないで)で優勝した1988年大会に続く3度目の優勝。36年ぶりの快挙となった。
前大会優勝者ロリーン(Loreen)からトロフィーを授与されたニモはその優勝スピーチで、「本当にありがとうございます」、「このコンテストがその誓いを果たし、平和と世界のすべての人の尊厳を守り続けることを願っています」と述べ、感極まり涙を見せた。
「The Code」は自身の経験に基づいてノンバイナリー・ジェンダーの葛藤と受容、祝福を歌うオペラティック・ポップ/ラップ。ソングライターは、Benjamin Alasu、Lasse Midtsian Nymann、Linda Dale、そしてニモ。ドラマティックに進行していくアップテンポなポップ・サウンドをベースに、テーマと呼応して力強いラップとオペラティックなファルセットを巧みに織り込みながら、自己発見で息を吹き返す多幸感あるラストへと向かう。
タイトルは、男性か女性か、二分される世界を表すバイナリーコードからくるもの。シンプルな構成の舞台演出となった決勝のライブ・パフォーマンスのステージでは、傾いて回り続ける円盤の上に乗り、バランスを取りながら歌い、自分らしく自由に生きる道を見出す。
「0と1の間のどこかで/僕の天国を見つけた/僕の心臓が鼓動する/0と1の間にある場所で/僕の天国を見つけた/ドラムのように僕の心臓が鼓動する」、「僕は地獄に行って戻ってきた/自分らしく生きていくために/僕はコードを破った/Oh, Oh, Oh/アンモナイトのように/少し時間はかかったけど/僕は楽園を見つけたんだ/僕はコードを破った/Oh, Oh, Oh」
優勝後の記者会見でニモは、「自分だけでなく、私たちコミュニティ全体、ノンバイナリー、ジェンダー・フルイド、トランスジェンダー、そして自分らしくいることを恐れずにいる人たち、そして声を聞いてもらい理解されることを必要としている人たちを、心から誇りに思っています」 。
「私たちはもっと思いやりや共感が必要であり、お互いの声に耳を傾ける必要があります。そして私たちは、互いについて話すのでなく、互いに話し合い、互いを理解しようとする必要があります。それは本当に大切だと思いますし、 今夜がそれを思い出すきっかけになることを願っています。」
準優勝者は、今大会の優勝最有力候補として最も注目を集めていた🇭🇷クロアチア代表ベイビー・ラザーニャ(Baby Lasagna / 本名Marko Purišić)のロック・ナンバー「Rim Tim Tagi Dim」。同曲は審査員票で第3位(210ポイント)を獲得、視聴者票で最高得点337ポイントとなり総合547ポイントで第2位となった。外国での仕事を求めて急増するクロアチアの若者の移民をテーマにした「Rim Tim Tagi Dim」では、故郷の村を離れる決意をした若者の期待・夢と不安のジレンマをユーモアを交えてパワフルに歌う。
ベイビー・ラザーニャが単独で作詞作曲、重厚なロックをベースにヘビメタのレイヤーを重ね、リフにトラップ、軽快なテクノの要素が加わる同曲は、冒頭からインパクト強め、一度聴いたらクセになる”Rim Tim Tagi Dim”が何よりも特徴的で視聴者のハートを最も掴んだ。
第3位には🇺🇦ウクライナ代表アリョーナ・アリョーナ&ジェリー・ヘイル(alyona alyona & Jerry Heil)の「Teresa & Maria」。カトリック教会の聖人マザー・テレサとイエスの母である聖母マリアをタイトルに、愛と思いやり、優しさのメッセージと共に、より良き未来への行動力の大切さが込められた「Teresa & Maria」は、審査員票で第5位(146ポイント)、視聴者票で第3位(307ポイント)となり、総合453ポイントで第3位となった。
第4位には、🇫🇷フランスのスター、スリマン(Slimane / 本名 Slimane Nebchi )によるロマンスと愛のバラード「Mon amour」。哀愁漂う甘美なメロディーに情熱的な歌声で愛を注ぐラブソングは審査員票で第2位(218ポイント)、視聴者票で第4位(227ポイント)となり、総合445ポイントで第4位となった。
第5位には、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルの軍事作戦を受けて、その参加への抗議活動が大規模に行われ、誹謗中傷の矛先となった🇮🇱イスラエル代表エデン・ゴラン(Eden Golan)の「Hurricane」(ハリケーン)。イスラエルが出場した準決勝2に続いて、この日もマルメ市中心部で大規模なデモが行われ、パレスチナ国旗を掲げた数千人の参加者がイスラエル参加への抗議を表明した。デモ参加者の一部が会場に移動し、 約30人が警察に拘束された。
殺害予告、テロ厳重警戒体制のなか厳しい逆風とブーイングを受けながらエデン・ゴランは、愛する人を失った痛み、その葛藤と苦悩に満ちたある一人の女性の心情を綴ったパワー・バラード「Hurricane」(関連記事『イスラエル歌姫エデン・ゴラン、壮大バラード「Hurricane」逆風のなかユーロビジョン決勝へ』)をパワフルな歌声で歌い上げた。「Hurricane」は審査員票で第12位(52ポイント)、視聴者票は首位と僅か14ポイント差の第2位(323ポイント)となり、総合375ポイントで第5位となった。
今大会、絶大な人気を集めていた🇳🇱 オランダ代表ヨースト・クレイン(Joost Klein)は、木曜日の準決勝後に大会制作スタッフの女性メンバーに対して行ったとされる違法な脅迫行為の被疑事実で、スウェーデン警察の捜査を受け、決勝出場が失格となったと直前に発表された。
EBUは「私たちはイベントでの不適切な行為に対する一切の例外を認めないポリシーを貫いており、コンテストの全スタッフに安全で安心な作業環境を提供することに尽力しています」。「これを踏まえると、チーム・メンバーに対するヨースト・クレインの行為はコンテストのルールに違反しているとみなされます」と声明を発表。決勝の出場禁止処分は、ユーロビジョン初となり、決勝はオランダを除く25か国で戦った。
4時間にわたるスペクタクルなショーとなったグランド・ファイナルでは、ABBAが1974年大会で「恋のウォータールー」(Waterloo)で優勝してからちょうど50周年となるのを記念し、ロンドンでのABBAのアバターによるバーチャル・レジデンシー公演『ABBA Voyage』の映像とともに、マルメの会場では1991年大会優勝者のスウェーデン代表カローラ・ヘグクヴィスト(Carola Häggkvist)、1999年大会優勝者のスウェーデン代表シャロッテ・ペレッリ(Charlotte Perrelli)、2014年大会優勝者のオーストリア代表コンチータ・ヴルスト(Conchita Wurst)が「恋のウォータールー」を披露した。
またロリーンが新曲「Forever」と前大会優勝曲「Tattoo」をメドレーで披露した。
ユーロビジョン2025は、🇨🇭スイス代表ニモの優勝を受けて、1956年にユーロビジョン初の開催地となったスイスで開催される。
決勝
決勝リザルト
順位 | 国 | 曲 / アーティスト | 総合 |
---|---|---|---|
優勝 | 🇨🇭 スイス | 「The Code」 Nemo | 591 |
第2位 | 🇭🇷 クロアチア | 「Rim Tim Tagi Dim」 Baby Lasagna | 547 |
第3位 | 🇺🇦 ウクライナ | 「Teresa & Maria」 alyona alyona & Jerry Heil | 453 |
第4位 | 🇫🇷 フランス | 「Mon amour」 Slimane | 445 |
第5位 | 🇮🇱 イスラエル | 「Hurricane」 Eden Golan | 375 |
第6位 | 🇮🇪 アイルランド | 「Doomsday Blue」 Bambie Thug | 278 |
第7位 | 🇮🇹 イタリア | 「La Noia」 Angelina Mango | 268 |
第8位 | 🇦🇲 アルメニア | 「Jako」 LADANIVA | 183 |
第9位 | 🇸🇪 スウェーデン | 「Unforgettable」 Marcus & Martinus | 174 |
第10位 | 🇵🇹 ポルトガル | 「Grito」 iolanda | 152 |
第11位 | 🇬🇷 ギリシャ | 「ZARI」 Marina Satti | 126 |
第12位 | 🇩🇪 ドイツ | 「Always On The Run」 ISAAK | 117 |
第13位 | 🇱🇺 ルクセンブルク | 「Fighter」 TALI | 103 |
第14位 | 🇱🇹 リトアニア | 「Luktelk」 Silvester Belt | 90 |
第15位 | 🇨🇾 キプロス | 「Liar」 Silia Kapsis | 78 |
第16位 | 🇱🇻 ラトビア | 「Hollow」 Dons | 64 |
第17位 | 🇷🇸 セルビア | 「RAMONDA」 TEYA DORA | 54 |
第18位 | 🇬🇧 イギリス | 「Dizzy」 Olly Alexander | 46 |
第19位 | 🇫🇮 フィンランド | 「No Rules!」 Windows95man | 38 |
第20位 | 🇪🇪 エストニア | 「(nendest) narkootikumidest ei tea me (küll) midagi」 5MIINUST x Puuluup | 37 |
第21位 | 🇬🇪 ジョージア | 「Firefighter」 Nutsa Buzaladze | 34 |
第22位 | 🇪🇸 スペイン | 「ZORRA」 Nebulossa | 30 |
第23位 | 🇸🇮 スロベニア | 「Veronika」 Raiven | 27 |
第24位 | 🇦🇹 オーストリア | 「We Will Rave」 Kaleen | 24 |
第25位 | 🇳🇴 ノルウェー | 「Ulveham」 Gåte | 16 |
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